矢筈岳

笠堀ダムより

２００２年４月２１日、ふうた、吉田

コースタイム
4：00笠堀ダム発-5：55光来出川渡渉地点着6：45発-7：35　714ｍピーク着7：45発-8：06向赤松�ｰ通過-9：03大弛み通過-10：07 1022mピーク着10：17発-11：20矢筈岳着11：55発-12：401022ピーク通過-13：32大弛み通過-14：28向赤松�ｰ着14：33発-15：27光来出川渡渉地点着16：15発-18：25笠堀ダム着

＊資料によっては大弛みはヒバコの頭の先の鞍部を指していますが、このレポートは、大弛みは869ｍピークの先の780ｍの鞍部として書きました。

すさまじい山行だった。
激流の渡渉、猛烈な藪こぎ、長時間歩行。どれをとってみてもなかなか経験できない物だった。
私にとっては前週に魚止山ルートから１泊で矢筈岳に登頂しているので２週連続となったが、残雪の量や歩く距離からして今回の山行の方が厳しかったといえる。

前年の光来出川渡渉失敗から１年が経過した。このルートからの矢筈登頂は宿題だったのだ。
山仲間のふうたさんも矢筈に行きたがっていたことから、会の山行と２週連続となるが、ルートが違うことだし挑戦することにした。

前夜、登山口の笠堀ダムに入り、車の中で寝ていた。仕事が終わって駆けつけた相棒のふうたさんも遅くなってから来て、彼のテントの中で軽く飲んで就寝した。
４時出発のため３時２０分に起きた。睡眠不足で体がだるい、なんとなく気が重い。
ダムの明かりの中を歩き出した。
ダムの堰堤を対岸に渡り、ヘッドライトを点けてダム湖畔の遊歩道を進む。一歩踏み外せばダム湖に転落だ。大して明るくも無いヘッドライトの光だけが頼りだ。気を使った歩きが続く。
空がだんだん明るくなり、あたりもだんだん見えるようになって来た。ふうたさんは早々にライトを消した。しかし、先頭を歩く私がライトを消したのは出発してから５０分くらいたった頃だった。
笠堀沢や宿の沢は雪で埋まっていた。昨年はこの湖畔の道の雪が多く、ピッケルを使ってトラバースするような場面が多かったが、少雪の今年は快調に進むことができた。
湖の幅が狭くなるとウルイサドリという岩壁がある。道はその岩壁をトラバースするように付いている。鎖もあり足場はそう悪くは無い。
対岸に大川の流入地点を過ぎ、道も藪っぽくなり始めた頃、対岸にコンクリートの階段のある渡渉地点が確認できる。場所は石小屋沢の流入地点のやや下流だ。渡渉地点から石小屋沢の流入地点の滝を見ることができる。
周囲はブナ林になっていて、その中を光来出川岸に下りた。降りてみて分かったが、こちら側の岸にもコンクリートの階段があった。
川幅は20ｍくらいはあるだろうか、その川幅いっぱいに水が流れている。しかし、川底が透けて見えるため、明らかに昨年来たときよりは水量が少なく見えた。それより驚いたのは、ロープが張ってあったことだ。誰かが入山しているのかとも思ったが、ロープは太いビニールロープで、山用のロープとは違う。ロープが止めてあるところには鉄製の止具があり、対岸の尾根上にある雨量小屋のメンテナンス用のルートであることが伺えた。
我々は、ありがたくそのロープを使わせてもらうことにしたが、帰りにはずされていることも考えて、我々が持ってきたザイルもそこに張ることにした。
ズボンのすそをまくり、靴を渓流たびに履き替えて、カラビナとスリングで設置してあったロープに確保し、腰に持ってきたザイルを結んでふうたさんに確保してもらって川に入った。
見た目より川は深かった。深いところで股下くらいの水量があった。そして、雪解け水は猛烈に冷たい。対岸に渡って階段を少し上がったテラスでズボンと靴を履き替えた。口からは思わず「はっけー（冷たい）」と叫んでいた。
まずは持ってきたザイルをこちらの岩壁にぶち込んである止具に結び、ふうたさんが渡ってきた。彼は途中で何かを話そうとしたが、その瞬間に転び、全身ずぶ濡れになってしまった。
木にビニール紐を張って、濡れた衣服をそこで乾かし、帰りに回収することにした。

渡渉した光来出川の流れ	渡渉地点にはロープが張ってあった

そこからはコンクリートの階段が続いていた。この階段はこの尾根上にある雨量観測小屋の為の道なのだ。階段がなければとても登ることの出来ないような斜面だ。
途中でトラバースして尾根の先端方向に行き、尾根の上にある階段に乗った。階段の段差は大きく、歩いているうちに腿が張ってきた。
標高349ｍ地点に雨量観測小屋があった。階段はそこまで続いていた。
そこから先も急な登りが続く、道は一般登山道と同じくらいしっかりした道だ。登るにつれて展望が開けてくる。進行左手に石小屋沢のスラブが迫力ある姿を見せていた。
714ｍピークで急登は一段落だ。周囲の展望が開け一息入れた。
そこから先は少し藪っぽくなってきた。踏み跡はしっかりしているが、木を掻き分けながら進むようになってきた。残雪があるところはできるだけ残雪を利用した。向赤松�ｰには三角点があった。これから進む尾根を望み、その奥に矢筈岳が見えているが、まだまだ遠い。
残雪の上を歩けるところは気分が良いが、藪こぎは大変だ。向赤松�ｰの先の鞍部からはほとんど藪こぎとなった。小さなアップダウンだったが、藪を書き分けながらの昇り降りは大変だ。
869ｍピークを越すと780ｍまで一気に下って上り返す。大弛みと呼ばれているところだ。所々岩場もある下りだった。
上り返して尾根が広くなったところに大きく雪が残っていた。小休止とした。
ヒバコの頭の登りは急だったが雪堤を使って登った。遠くから見た感じでは、ここから先はほぼ残雪利用でいけると思っていたが、そう簡単には行かなかった。
ヒバコの頭までは事前の調査ではかつて道が刈ってあったのはここまでのはずだった。しかし、その先にもしっかりした踏み跡はあった。
ヒバコの頭の先の鞍部を過ぎ、尾根が広くなってきたところからは気持ちのいい雪原の歩きになった。展望も開けてきて気持ちがいい。
粟ケ岳や青里岳が間近に聳え、川内の核心部の山々がそれぞれの個性ある姿で我々に迫っていた。
青里岳への分岐を過ぎると、新しい足跡が下っていた。今まで誰ともすれ違っていない。でも、足跡は確実にこの日のものだ、青里岳へ向かった人がいるのだろうか。
割岩沢の突き上げの付近から尾根が痩せ、猛烈な藪こぎになった。山頂は目前なのになかなか近づかない。やぶは低木ながらも木が硬く、押しのけるには力が要った。ふうたさんが遅れ気味だったが、ここまで来れば山頂まで近いので、先にどんどん進んだ。
とにかく山頂が目前なのになかなか近づかない。
やっとの思いで山頂に着いた。ふうたさんは５分ほど遅れてやってきた。
そこからは、川内山塊の盟主に相応しい眺望が待っていた。しかし、風が強く、疲れていたので、少しだけ景色を楽しんで写真を撮った後、風を避けて藪の中の雪だまりの腰を下ろした。
乾杯の酒は私が持ってきた350ｍｌのビールが１本だけだ。酒好きのふうたさんが酒類を持ってきていない。二人で１本のビールを分けて乾杯した。
３０分ほどの休憩の後山頂を後にした。

できるだけ早く渡渉を済ませておきたかった。
目印に付けた赤布はすべて回収しながら降りて行った。
大弛みからの登り返しは辛かった。藪を掻き分ける手の力が落ちていくのが分かる。
ぽつぽつと雨が落ちてきた。一日中曇り空だったため、雪解けによる川の増水はあまり無いと思っていたが、雨が降れば川は増水する。本降りにならない前に渡渉を済ませなければ帰ることはできなくなる。しかし、雨はぽつぽつ程度で心配するほどでもなかった。
714ｍピークからの下りは急で、疲れた足には辛かった。雨量小屋を過ぎて階段が現れたときはほっとした。
渡渉地点には３時半頃着いた。
見るからに増水していたが、渡れないほどでもないと思った。
ただし、ザイルはやや川上に向かって張ってあるため水圧が強いことが予想できた。
再び渓流たびに履き替えてカラピナとスリングで確保して、私が先に川を渡った。水深は腰まであった。一瞬つまづき胸まで水に漬かった。水圧は朝よりも強い、ザイルを手で手繰りながら渡渉した。
すぐに乾いた衣服に着替え、ふうたさんを確保する。
ふうたさんは設置してあるロープにスリングとカラピナで確保し、私が岸からザイルをひっぱった。朝川の中で転んでいるので、真剣に渡ってきた。
雨が降ってきていたが、なんとか更なる増水になる前に渡り終える事ができた。
渡渉用具をザックに入れると重量が重くなる。でもあとは湖畔の道を戻るだけだ。
でもこの湖畔の道は疲れた体には辛かった。少しのアップダウンもきつく感じる。
ダムに再び明かりがともる頃ようやく戻ってきた。
振り返ると夕暮れの空に矢筈岳が無表情に聳えていた。
充実感よりも疲れたという気分のほうが強かった。

山頂から見た守門岳	山頂での記念写真	粟ケ岳を見ながら下る

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