御神楽岳、前ケ岳南壁
V字第四スラブ


2005年10月16日、吉田、ふうた

コースタイム
8:10御神楽岳会津側登山口発-8:55鞍掛沢出合-9:30V字谷出合着9:40発-10:20V字の広場着10:30発-V字第四スラブ-13:00前ケ岳の稜線着13:10発-13:55避難小屋着14:35発-16:20登山口着  

 会越国境に聳える御神楽岳、緩やかな稜線に隠れて、東側と南側には雪崩が刻み込んだ壮絶なスラブを有する山だ。  
 南側の岩壁は支尾根のピーク前ケ岳の南側にあることから「前ケ岳南壁」と呼ばれている。  

 安田ICで相棒のふうたさんと合流し高速に乗って福島県金山町の登山口を目指す。空はあいにくの雨模様、明け方には止むという予報を信じて一路会津へ向かって車を走らせた。  
 会津坂下ICで高速を下り、只見川沿いの国道を上流方向に走る。金山町に入り、本名ダムで国道がカープするところを直進して霧来沢沿いの林道を進むと御神楽岳の会津側登山口に至る。  
 
 天気はまだ小雨模様、晴れることを信じて登山道を歩き始めた。実はこの時地形図を忘れたことに気づいた。ふうたさんも持ってこなかったらしい。しかし、何度かこの山域に足を踏み入れているので前ケ岳に至る道筋は頭に入っている。なんとかなるさと歩き始めた。  
 八乙女の滝の高巻道を越えたら霧来沢に下りた。沢の左岸に付けられた登山道は沢と平行に進むが、アップダウンを繰り返す登山道より沢慣れした人なら平らな沢を歩いた方が早いし気持ちいい。  
 やがて霧来沢の名物「八丁洗い板」が現れる。川幅一杯の一枚岩の上を水が浅く流れる自然の造形美だ。  
 鞍掛沢の流入を見送ると水量が減る。緑の岩肌に流れる水がきれいだ。  
 やがて本流を左に見送り右又に入る。前ケ岳南壁が谷の間から姿を現し始めた。そそり立つ壁だ期待と不安が心の中で交差する。  
 ゴーロ状の沢を少しずつ登っていきV字スラブより流れ下る沢の出合で一旦ザックを下ろした。水を補給して傾斜が急になってきたゴーロを登った。  
 雨はいつしか上がっていた。  
 ちょっとした滝がいくつかあり、やがてスラブ帯に入って行った。  
 
八丁洗い板、まるで舗装道路に水が流れているようだ。

 V字の広場でV字スラブを見上げる。目指すは一番左の第四スラブだ。四つのスラブの中では最も傾斜がきつい。しかし、垂直に近い岩壁を想像してきた私には案外傾斜が緩いなと思ってしまった。  
 
V字の広場より見上げる
左側が第四スラブ、中央右側は第二スラブ

 第四スラブに向かって一段上がったところで靴を渓流シューズからクライミングシューズに履き替えた。    
 担いできた9mm×50mのロープを出し基部にハーケンを一枚打ってふうたさんは確保の準備を始めた。最初は私がリードすることを決めてかかっている。  
 「俺がリードするの?」  という言葉のやり取りの後、私が1ピッチ目の登攀をリードして登り始めた。  
 スラブ左寄りより登り始めた。すぐに残置ハーケンで最初の支点をとる。そして、すぐ上のブッシュで2つ目の支点。  
 下から眺めたときはバンドをジグザグに登ろうかと考えたが、ハーケンを1枚打ったとき、岩がはがれて落ちたのを見て作戦変更。支点はブッシュで取るしかなく、ブッシュのないスラブ中央部はやめてそのまま左寄りを直登した。  ただ、ブッシュも岩から髭のように生えている頼りないものしかなく、墜落した時私の命を守れるかは保障の限りではない。  
 左に寄りすぎて壁が垂直になってきた。どう進むか考えた。かぶり気味の岩のアンダーをとって直登するか右へトラバースするか・・・・トラバースするのには草つきの小ルンゼを大きくまたがなければいけない。ルンゼの中には足場はない、その後のルートを眺めてトラバースに決め、頼りないブッシュでバランスをとり、大きく右足を飛ばして草付を跨ぎ右の岩に飛び移った。  
 ビレイヤーのふうたさんよりロープの残量が少ないというコール。  一歩トラバースしたところでまた直登し、片足一歩ずつ立てるバンドでロープが伸びきってしまった。  確保するのにいい木が無い。うっかりボルトをザックの中にしまっていた。ハーケンを打つリスくらいあるだろうと思っていたのだ。  
 ザックが落ちないように腰のギアラックにスリングを掛けその先にザックをカラピナで確保して中からボルトとボルトを打つのみを出した。セルフビレイなども取れない場所での作業だ。  
 際どい足場での作業になったが、やわらかい緑色凝灰岩に助けられて数分でボルトを打ち込むことが出来た。抜けないことを確認してセルフビレイをとり「ビレイ解除」のコールを相棒に送る。そして、ふうたさんが登ってきた。  

 2ピッチ目はつるべでそのままふうたさんがリード、岩は黒く濡れているが1ピッチ目より傾斜は緩く、ハーケンを打つリスも支点を取るブッシュも無かったため、ふうたさんはそのままロープを引きずって上がり、しっかりした木に支点を取って確保した。  
 その後私はふうたさんの確保でトップロープで登るが、ロープを引っ張りあげる速さより歩く速さのほうが速くなってしまう。  
 3ピッチ目はブッシュが豊富にあり支点を取るのは容易だったが、ロープの流れが悪くなり、ロープの長さの半分を登ったところで腰をおろせるテラスに出たので、そこでピッチを切り後続を確保した。  
 既に12時半を回り、腹も減ってきたので小休止して行動食を食べる。    
2ピッチ目、ふうたさんは支点を取らずにリードした 休憩したテラスより見おろす
濡れた岩が2ピッチ目、1ピッチめは見えない
その下にV字の広場が赤茶けて見える

 そこから上を眺めて「フリーでも行けそうだなぁ」「確保するのも疲れるしなぁ」と意見が一致し、フリーで登ることにした。安全を考えれば確保した方がいい場面だ。落ちれば命の保障は無い。  
 フリーで登ると速い。クライミングシューズのフリクションは抜群だ。スタスタと高度を上げて一気に稜線に出た。  
 出た所の西側のピークが前ケ岳のピークになるのか、一応山頂を踏んでおく。    

 靴を渓流シューズに履き替えて、藪こぎ45分で登山道に飛び出した。  
 避難小屋に入ってチューハイとビールで乾杯。厳しい岩の登りでもこれだけは欠かせない。  
 下山は登山道を下り、霧来沢の水音が聞こえたたりで沢に下りて朝より水量が減った沢を鼻歌交じりで歩きながら下ってきた。  
 朝、高巻いた八乙女の滝をクライムダウンで下りてから登山道に上がった。  

 「さて、来年はどこにする?」と早くも次の目標に話題が移っていた。    
スラブを登るふうたさん 登山道よりV字スラブを見る
中央上部の2つの小ピークの間に突き上げているのが
第四スラブV字スラブの中でも最も傾斜がきついのが
よくわかる

用語解説
スラブ・・・一枚岩の壁で垂直よりも傾斜の緩いところ
ハーケン・・・岩の合わせ目に打ち込むクサビ
リス・・・・岩の合わせ目、ここにハーケンを打つ
リードする・・・・ロープを引っ張ってトップで登ること、落ちるときはロープ中間支点より伸びた分の倍落ちるので緊張する。
トラバース・・・横に移動すること
ルンゼ・・・・岩のくぼんだ縦筋
ギアラック・・・・ハーネスについているカラピナなどをぶら下げるところ
スリング・・・シュリンゲともいう、ロープで作った輪
ボルト・・・・・岩に穴をあけ、そこに打ち込むと先端が広がって抜けなくなるしくみのもの
ビレイヤー・・・・確保している人
セルフビレイ・・・・立ち止まっているときうっかり落ちないように木やボルトに自分を結びつける
フリーで登る・・・・確保無しで登ること
フリクション・・・・摩擦
クライムダウン・・・・ロープを使わずに岩壁などを下りること

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