日本百名山に思う@

越後駒ケ岳で会った百名山ハンター


 深田久弥の「日本百名山」
 今更説明するまでもない、百名山ブームのきっかけになった著書である。
 私は高校のとき書店で文庫本のこの本を見つけて購入し、全部読み終わってしばらくしたあと、廃品回収に出したか、捨ててしまった。当時は狭い部屋を読み終わった本でますます狭くするのがいやで、このように読み終わった本から処分していたわけで、処分したことに大きな意味はない。
 その後、大学に進み4年になって再びこの本を購入している。購入してからすぐ、目次に自分が登った山に印をつけた。その本が今でも手元にある。
 しかし、それからしばらく登山から離れてしまい。再び読み返すのは登山を再開した33歳の年になってからである。
 その時、日本の山は中高年の百名山ブームになっていた。

 登山を再開した年の9月。越後駒ケ岳に登った。
 百名山ということでゆっくり山を味わおうと思い、山頂近くの駒の小屋で泊まった。
 その時、この山で百名山完登という人が同宿の人にいて、同行のパーティーのメンバーが祝っていた。パーティーのメンバーの一人が一升瓶ごと「八海山」を担ぎ上げて、パーティーのメンバーや小屋にいた人たちにその酒を振舞っていた。
 駒ケ岳で「八海山」もいいなあと思いながら、私も一杯いただいた。
 完登した人は女性の方で、百名山完登の思いを皆に語っていた。登山暦は20年くらいで、学生時代から登山をしており、百名山の存在を知ったときは既に多くの山を登っていたらしい。それでも、百名山完登を目指して登山していたわけでなく、結果として完登したのだそうだ。(記憶の範囲で書いているので、細部は違っていたかもしれない。)
 
 その2年後、越後三山縦走を目指して再び越後駒ケ岳を訪れた。
 その道中、道行山付近から一人の百名山ハンターの男性と駒の小屋まで一緒に歩いた。彼は写真が趣味の方らしく、大きなカメラに三脚、ビデオカメラまで担いで登っていた。
 植物に詳しい人で、あまり知らない私はいくつか教えてもらった。
 百名山ハンターと分かったのは、その会話の中で、「休暇の間に苗場山と巻機山、谷川岳、平ガ岳に登る予定で、今百名山○○座目」と話したからである。
 私は越後三山縦走をしにやってきた事を彼に話すと、なんと彼は越後三山の事を知らなかった。私は当然のことながら簡単に越後三山の事を説明し、深田久弥は越後三山の代表として越後駒ケ岳を百名山に選んでいることが「日本百名山」の本に書いてありますよね。と、聞いてみると、彼は深田久弥の「日本百名山」は読んだことがないといった。それでも、地形図や登山用として売り出されている地図を見ながらこの山に来ていれば、当然越後三山の事は知っていなければおかしいと聞いてみると、地図は持たず、百名山のガイドフックを見ながら登っていることが分かった。
 そして、「六日町あたりを走っていたとき、山頂がごつごつしたかっこいい山があったけど、あれはなんていうの?」と聞いてきた。山容からして八海山に違いない。八海山は百名山ではないが、ある意味越後駒以上に有名な山である。私が驚いたのは言うまでもない。
 彼は日帰りの予定で山に入っていたが、駒の小屋に着く頃にはガスがかかり始め、いい写真が取れないことから駒の小屋で泊まることにした。寝具は小屋にあるので食料は余分に持ってきているらしかったので、泊まることもできたようだ。
 その後、私は駒ヶ岳の山頂に登り、山頂にいた登山者からガスの切れ間に時折現れる八海山を指して「あの山は何ていう山ですか」と聞かれた。どうやら八海山を知らない駒ケ岳の登山者は、前出の彼だけではなかったようである。
 原本の深田久弥の「日本百名山」の魚沼駒ケ岳の項を見れば分かるが、深田久弥はその中での著述は越後三山(本の中では魚沼三山)全体の事を記し、そして、多くは八海山の説明に行数を割いている。駒ケ岳を三山の代表に挙げたのは、この山が一番立派だからであるとしている。
 深田久弥の原本を知らずして、百名山ハンティングをする登山者がいることに少なからずショックを覚えた。

 その後、このように深田久弥の原本を読まず、また、地形図も持たずにガイドブックだけで登る百名山ハンターが実に多いことを、雑誌やインターネットや山仲間の話で聞いた。
 私としては、この「日本百名山」は深田久弥が個人の視点で選んだものであるので、深田久弥自身のその山に対する思いを読まなければ百名山を目指す意味はないように思う。
 それよりも、「百名山登山ガイド」だけを頼りに登るということは、あまりにも安易な登山すぎやしないかと心配になる。
 多くの百名山は日帰りが可能で、また、営業小屋がある山が多いが、越後を取り巻く百名山は平ガ岳や飯豊山のように、山中に避難小屋かテントで一泊しなければ登れない山だってあるのだ。
 百名山を目指して登山をしている中高年登山者の皆さんには、深田久弥の原本は読んでほしいということと、事前に地形図などで登る山の下調べをするのはもちろん、自らのレペルにあった登山をしていただきたいと思う。

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