日本百名山に思うB

名山の条件


 深田久弥は「日本百名山」の後記に百名山選定の条件と思いを書いている。
 選定の条件は、山の品格、山の歴史、山の個性の三つの条件と、付加的要素としておおむね標高1500m以上という線を引いている。
 ここで注目すべきは、山の歴史を条件に入れていることだろう。日本人と山との関わりの歴史は古い。そして、ふるさとの風景として心の中にみな山の姿がある。もちろん、深田久弥が登ったときはまるで道がなく、まったくの藪山だった山も含まれている。越後の平ガ岳がそれである。山の歴史を名山の条件に入れているのに、これはおかしいと思うかもしれない。
 しかし、その答えは「日本百名山」の平ガ岳の項に書いてある。それは、利根源流の最高峰、独自な山容、そして、これだけワンサとどこの山にも人が行く時代に、まだろくな登山道のないことが選定理由である。
 山の歴史はなにも信仰や里の人達とのかかわりの歴史だけではない。人を拒み続け、近代登山の時代になってようやく明らかになった山の歴史も重いものがある。
 その平ガ岳も深田久弥の登頂後しばらくたってからに登山道が開かれ、一時は中ノ又川の林道を使って簡単に登れる山になってしまった。
 今や百名山の中で登山道のない山などはなく、人を拒み続けた歴史を持つ山も、開かれた山になっている。これもまた、名山がゆえに仕方のない運命なのかもしれない。


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