楽しく安全な登山の為に

豊栄山岳会
吉田明弘

<1>計画も楽しいものなり

  ガイドブック、雑誌、インターネットなどで山の写真を見たり、紀行文や案内文を読むのは楽しいもので
す。
「よし、今度の休みにこの山へ行こう」と考え、自分の目の前にその山の風景が広がる事を想像すると、
もう、心はわくわく。
  ここから山行の計画が始まります。

@山の選定
 
  地図、ガイドブック、雑誌、インターネットなどで行きたい山を選びます。自らの力量に有った山を選び
  ましょう。
  登山口までのアプローチは大丈夫ですか?
  自宅からの距離、無理な日程になっていませんか?
  季節によっては登山口まで車が入れない事が有ります。事前に地元に確認しましょう。

Aメンバーの選定
  
  気の合った仲間で行くのはもちろんですが、その山のレベルに合った人選をしましょう。(当然ですね) 
  初心者を連れて行くときは、行動時間が登り下りあわせて6時間以内が良いでしょう。
  また、沢の徒渉、岩場など有るコースは初心者を連れて行くのは考え物ですね。

B計画書を作成する。

  計画書を作成しましょう。
  1.目標の山、登山口、下山口、経由地を明記し、簡単なルート図を添えます。
  2.時間的なスケジュールを記入します。登山開始何時、山頂到着何時、下山何時。
  3.メンバー全員の名前と連絡先を明記します。携帯電話を持っている方はその番号も記入した方が良い
      でしょう。
  4.トラブルへの対応策。エスケープルートも計画に入れましょう。

  計画書はメンバー全員とメンバーの家族、そして、登山口の登山届入れに提出しましょう。(場合によっ
  ては所轄警察署に提出)

Cできれば、準備会を行うとなお良いです。

<2>装備と一緒に心も準備

準備をしているといよいよだという気分がたかまります。
それぞれガイドなどのチェックリストなどを見ながら準備すると良いでしょう。
ここでは特筆すべき点のみ、まとめてみました。

@服装

  速乾性の素材の服が良いでしょう。綿は肌触りは良いですが、一旦濡れるとなかなか乾きません。
  夏でも防寒用の上着や手袋も用意していきましょう。
  また、下山時の着替えも忘れずに。

A靴
  
  無雪期の登山道を歩く山行では、軽登山靴で充分です。
  厚い靴下を履いて、爪先にややゆとりのあるサイズのものが良いでしょう。普段履くものより一回り大き
  くなります。
  靴が窮屈だと、長い時間歩けません。また、歩いているうちに足がむくむ事も考えて、大き目のサイズの
  靴を選び靴紐で調整しましょう。
  新しい靴を買ったら、事前に履いて足慣らしをしておきましょう。

Bザック

  一つもつとしたら、30L〜40Lの縦長の物が良いでしょう。
  日帰りでも、コッヘルやコンロなど入れればこれくらいのサイズのものが必要になりますし、小屋泊りな
  ら1泊程度の荷物も充分に入ります。

C雨具
  
  ゴアテックスのセパレート型の物が良いでしょう。
  使用したら、水で泥を洗い流し、ハンガーに吊るして保管しましょう。汚れたままではゴアテックスの特
  性が生かせないまま だめになります。(経験者は語る。)

D救急用品

  持ち歩く救急用品の例です。
  スプレー式傷薬、バンドエイド、ガーゼ、テーピングテープ、軟膏、バンテリン、
  下痢止め、鎮痛剤、鎮静剤、虫除け、虫刺され用薬品

Eその他

  日没後の下山に備えて、ヘッドランプは携行しましょう。
  共同装備にツェルトを入れましょう。

F食料

  山で食べる食事はどんなに高級なレストランの食事よりもおいしいものです。
  これも登山の楽しみの一つです。みなさんそれぞれ知恵を出して、用意しましょう。
  ただ、冷蔵庫を担いで上がるわけには行きません。肉などは前日のうちに油で炒めて、冷凍しておけば
  昼頃には解凍されていますし、火を通してあるので調理も速く、油で空気に触れないので、傷みにくいで
  す。
  食事担当の腕の見せ所です。食べているときのみんなの笑顔が楽しみです。

<3>楽しく安全な山歩き

家を出てから帰るまでが一つの山行です。
最大の目的は、山頂を極める事でなく、無事に帰ってくる事です。

@リーダー、サブリーダーの役割とメンバー

  リーダー、サブリーダーは事前に決めておきましょう。
  リーダーになる人は、山の経験が豊富で体力が有り、グループを統率できる人格を持ちあわせた人がが的
  確です。
  また、サブリーダーも当然、経験豊富で体力がある人でなければなりません。
  ここでは、実社会の地位肩書きは何の役にも立ちませんので、職場の部下が山でリーダーになる事も当然
  あります。
  メンバーはリーダーの指示に従い行動しましょう。身勝手な行動は慎むべきです。
  ただし、山では自らの足で登り、降りてくるわけですから、メンバー各自が山行計画をしっかり把握して
  万一はぐれても下山できる心構えが大切です。

Aリーダーとサブリーダー

  リーダーは常に最後尾を歩き、メンバー全員の状態を常に把握しておきましょう。ばてている人はいない
  か、荷物の乱れはないかおしゃべりに夢中になって浮き石に足を乗せようとしていないかなどを見守りま
  す。そして、適宜休憩の指示を出します。
  サブリーダーは先頭を歩き、安全なコース選択、メンバーの力量に合ったペース配分を考えながら歩きま
  す。
  ただ、ルート選択に迷いそうになったら、リーダーに相談して、時としてリーダーに先頭を歩いてもらう
  事も有ります。
  その場合はサブリーダーが最後尾を歩きます。
  よくあるのが、ばてたメンバーが「先に行って」とパーティーを先に行かせ、後からゆっくり付いていこ
  うという行動をとる人がいます。
  もちろん、そんな事をしては行けません。
  ばてたメンバーがいたら、その人に合わせてペースを落とすか、全員で休憩しましょう。
  もし、別行動を取らざるを得なければ、力量のある人に付いてもらい、一人での行動にならないようにし
  ましょう。

B地図とコンパスの活用

  2万5千分の一地形図、または、登山用の地図とコンパスを活用して、常に現在地を把握しておきましょう。
  分岐点やピーク、鞍部などでは必ず地図を確認しておきましょう。

C歩く順番

  メンバーの中に初心者がいたらサブリーダーの後ろの2番手を歩かせます。サブリーダーはその人の状態
  に合わせて、
  ペースを決めていきます。
  力量のある人、体力のある人は後ろの方を歩きます。

D歩き方

  胸を張ってべた足でが基本です。歩幅は小さ目が良いでしょう。
  ザックを担いでいるので猫背になりかちですが、これでは腰に負担がかかってしまいます。
  また、数歩先を見る事で、歩きがスムーズになります。
  歩くリズムに合わせて息を吐きます。もちろん当然吸って吐いてを繰り返すわけですが、吐く方を意識的
  に行えば、吸うリズムも自ずと出来ます。
  下山時は特に膝に負担がかかりますので、意識的に歩幅を小さくすると良いでしょう。また、バランスを
  保持する為に、ストックの活用や登山道脇の木や岩をつかむのも良いでしょう。

E岩場の通過

  岩場の通過は一人ずつ行いましょう。鎖やはしごが付いている所では、前の人が通過してから次の人が歩
  き始めるようにしましょう。
  人為的な落石を起こさない事も大切です。
  もし、落石を起こしたら「ラク」と叫んで周囲に注意しましょう。

F沢の徒渉

  登山道が沢を横切っている所は多々有ります。飛び石伝いに渡れる所はどうってこと無いのですが、足を
  濡らさなければ渡れない所は注意しなければなりません。
  水の中では距離感が狂いますし、流れによっては沢底の様子が分からない所も有ります。そういう所では
  すり足で歩き、足の感覚で沢底を確認しながら渡りましょう。
  当然の事ながら、渡れなければ他のルートを選ぶか、撤退する事になります。

G記録を取りましょう

  メンバーに記録係を決めておき、時間の記録などの記録を取りましょう。次回の山行の参考になりますし、
  思い出が文書になる事は楽しさを再び味わう事が出来ます。
  また、他のメンバーが参考にする事も出来ます。

<4>マナーを守って楽しい登山

山は自分達だけの物では有りません。他にも登山者がいますし、元々住んでいる動植物が居ます。また、
奇麗な山を後世に残していかねばなりません。
マナーを守って楽しい登山をしましょう。

@挨拶をしましょう

  道ですれ違うときは「こんにちは」と挨拶をしましょう。その時、登山道上に足場の悪い所や迷いやすい
  所などあったら、情報として伝えておきましょう。
  ちなみに、すれ違うときは原則として登りが優先になります。

Aゴミは持ち帰りましょう

  たばこの灰まで全て持ち帰りましょう。生ゴミは土に返るからと捨てていく人がいますが、登山道に野生
  の動物を近づける事になりますので、これも持ち帰りましょう。

B動植物をいたわりましょう。

  奇麗だからと言って花を取っては行けません。自然の物は自然のままにしておきましょう。野生の動物に
  えさを与える事もいけません。動物達の野生の勘が鈍る事になります。山菜やきのこも地元の方々の物で
  す。出来れば取らずに居たいものです。取るとしても、自分がその日食べる分だけにしましょう。

C登山道を外れずに歩きましょう。

  登山道を外れる事は、可愛い草花を踏みにじる事になります。特に高山植物は踏まれるだけで枯れてしま
  うものです。
  登山道を外れずに歩きましょう。奇麗な花の写真を撮る為に、その前にある花を踏んではいませんか。

D排泄物

  山中でもようしたとき、どうしても排泄をしなければいけませんね。でも、場所を選びましょう。
  登山道の上でするのはナンセンスですね。後から来る登山者に不快感を与えます。また、人目につかなく
  ても近くに水場はありませんか。水場の上流にならないよう注意しましょう。
  そして、出来るだけ土の上でしましょう。土中のバクテリアが分解して土に返してくれます。
  水に溶ける紙を使用しても、その紙はそこに捨てればごみになります。持ち帰るように努めましょう。
  また、岩場や湿地帯、および3000m近い高所ではバクテリアが居ませんので、そこですると永遠に排
  泄物はその場にある事になります。
  近くに山小屋などのトイレがあれば、それを利用しましょう。
  山によっては、携帯トイレの携行を呼びかけている所が有ります。百名山などでは登山者が多すぎて、自
  然の力では処理しきれず。あちらこちらで排泄物を見かけてしまいます。
  この問題は今大きな問題になっています。

E山小屋、幕営指定地

  山小屋は旅館やホテルでは有りません。山における避難施設を兼ねています。管理人の指示に従って
  他の利用者ともども心地よく利用できるよう心配りが必要です。
  幕営指定地でキャンプするときも同様です。管理人にテントを張る場所の指示を仰いで、周りに迷惑を掛
  けないように。
  いくらおしゃべりが楽しくとも、8時には就寝するのがマナーになっています。

<5>もしもの時の心構え

@道に迷ったら

  道に迷ったと思ったら、確実な所まで引き返しましょう。道迷いは下山時に多く発生します。登っている
  時は上へ上へと目指せば山頂に到着できるものですが、下るときは下に行くほど山の裾野が広がるので、
  一旦道を外れると目的地に到着するのは困難になります。
  迷ったと思ったら、迷っていなかった所まで引き返す事が肝心です。しかし、元来た道さえ分からないと
  きは見晴しのきく所に出て、地図などで現在地を確認しましょう。
  決して沢へ降りないように、沢を下ると滝などで進退極まる事も有ります。また、無線や携帯電話で救助
  を求めるときも、尾根上なら通じやすいでしょう。

A怪我、急病

  怪我や急病で自力で下山できなくなった時は、遭難者を安全な場所に移動して、安静にさせ(程度により
  ますが気道の確保、止血など応急処置をして)救助を呼びます。
  できれば、ひとり付き添いを置き、携帯電話や無線で救助を求めましょう。電波が通じない所は、通り掛
  かりの登山者に協力してもらって、早く救助を求めましょう。
  連絡する内容は、
    1.遭難者の住所、氏名、電話番号
    2.事故の状況  いつ、どこで、どのように、状況、意識の有無、救助隊の要請、連絡者の住所、氏名、
        連絡先

B荒天時の対処

  1.雷・・高い木の真下、テントの中は危険。傘、ストック、ピッケルなどの長い金属を身から離す。
            身を低くし、高い木の2m以上離れて、こずえから45゜以内の所が安全。
  2.強風、突風・・岩陰や木の陰などを選んで歩くのは当たり前ですが、休憩する時も場所を選びましょ
                    う。
                    高い山の稜線では、一瞬の突風で人が飛ばされる事も有ります。ルート変更できるよ
                    うなら変更したいものです。
  3.季節外れの雪・・雪山装備を持っていなければ、いさぎよく下山しましょう。また、山小屋で回復を
                      待つ方法もあります。とにかく、岩場などの通過には慎重になりましょう。
  4.ホワイトアウト・・回復するまでその場から動きません。GPSがあると便利なのですが。

   なお、長雨が続いたとときは、登山道は大丈夫でも、登山口に通じる林道が損壊する事が有ります。長
    雨の時はその点にも注意が必要です。

<6>帰って来たら山行を振り返ってみましょう

  山行から帰ってきたら、その山行を振り返ってみましょう。
  装備はどうだったか、行動に無理はなかったか、食事はどうだったか、楽しく行動できたか・・・
  できれば、反省会を開いてみんなの意見を聞いてみたいものです。きっと、次の山行に役立つと思います。
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