山の湧水


 山の湧水は美味しい。これは、我々登山愛好家だけではなく、だいたいの日本人が思っていることだろう。
 店に売っているミネラルウォーターには「六甲のおいしい水」「南アルプスの天然水」「谷川岳の大清水」など山の水を売っている。もし、「六甲のおいしい水」が「神戸市のおいしい水」という名前だったら、きっと売れなかっただろう。山の名前を冠しているところで売れているはずなのである。ただ、実際の取水現場は山の中というより、山に近いところらしいが・・・・
 我が家の水は1年ほど前まで地下水をポンプで汲み上げて使っていた。我が家の周囲は造り酒屋が4件もある地下水のおいしい町である。我が家の水もカルシウムを豊富に含んだおいしい水だった。 
 ところが、ポンプのトラブルが続き、水道を引かざるを得なくなり、水道水に切り替えた。結果、今では水道水を飲まざるを得なくなり、水道水を活性炭で臭みを取ってから飲み水に使っている。
 だいたい水道の水はまずい、特に新潟市は日本一長い信濃川から取水しており、日本一長い川の流域には多くの人が住んでいて、その下水を流された最下流の水を水道水として新潟市は取水しているのである。旨い筈がない、だいたい消毒薬臭い。
 
 いつだったか、名水ブームなるものがあった。環境庁の選んだ「名水百選」には毎日水を汲みに来る人で賑わうようになった。ただ、このガイドブックを見れば分かるのだが、これはうまい水の百選なのではなく、地元がその水の保護に力を入れているところを環境庁が選んだので、中には仙台の広瀬川のように川も含まれている。なのにうまい水百選と勘違いして、水を汲む人の行列ができてしまった。なんだか滑稽な光景だ。
 私も名水百選に選ばれた栃尾市の杜々の森や津南町の竜が窪に湧水を汲みに行き、水道水で入れたお茶と湧水で入れたお茶を飲み比べて、明らかにその差が分かったことがあった。私もブームに乗った一人だった。
 名水ブーム以降、百名水に限らず名のある湧水にはポリタンクを持って水を汲みに来る人が後を絶たなくなった。
 
 でも、そんな水より山で飲む水の方が美味しい。
 汗水流して歩く道中に得られる水場の水は、どんな水よりも旨いのである。
 それは、その場でなければ味わうことができない。旨いからといって水筒に詰めて家に持って帰って飲んでも、そのときの旨さは感じないはずだ。
 なぜなら、水が旨いだけでなく、その場の空気や景色、そして、汗をかいた体が旨いと感じさせるのだ。日本の名水百選も世界の名水もかなわない旨さだ。
 あの暑い夏山で「水場」の看板を見た時のうれしさは例えようがない。また、藪山などで意外なところで岩から染み出した水を見つけると、地獄に仏を見た気分になる。その場にいなければ味わうことのできない旨さだ。
 とにかく、山で飲む山の水は最高の旨い水なのだ。


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