湯の平温泉

  飯豊山の赤谷口、林道の終点より1時間半ほど歩いた飯豊川の川原にある情緒
あふれる温泉だ。
  設備は露天風呂二つと山小屋が一軒、温泉が本湯と蟹湯と二つあり、本湯が女
湯、蟹湯が男湯にあてられれている。
  山小屋は食事は出さず、シーズン中(6月中旬から11月初旬)は管理人が入っ
有料だ。
  新発田市の案内や導標には読み仮名を「ゆのだいら」と読ませているが、地元
の人も多くのガイドブックも「ゆのひら」と読ませている。
  この温泉まで行く道は整備がよく、林道終点の掛留沢駐車場より湯の平温泉ま
で短い間隔で導標が立ち、ロープや鎖がちょっとした悪場につけられている。
  飯豊山塊の中で私が知る限りここまで整備の良い区間はないと思う。
  しかし、何故かこの区間は遭難が多い。多くは酒酔いによる転落だ。確かに道
すがら多くの遭難碑が立ち、これだけ短い区間でこれだけの遭難碑がある登山道
も飯豊山中では他に見当たらない。
  それは、多くは飯豊に入るのが目的の登山者ではなく、湯の平温泉に行くのが
目的の遊山者が多いことに起因している。
  そこで、五十嵐篤雄著の飯豊道に書かれている彼の意見を転載させていただく。

「飯豊道」湯の平温泉今昔より
  「車道は、毎年シーズン前に電力会社、営林署、新発田市が警察立ち会いで整備
しており、掛留から先の山道は新発田市が整備しているので、老若男女が安全に
遊山も兼ねて温泉を往復しているにもかかわらず、毎年四、五人の転落事故が起
きている。この人たちのほとんどが酒の酔っぱらいである。
  初めて湯治に来る人たちの中に、世間一般にある湯治場と思い、浴衣がけ、下
駄はき、スカートにハイヒール等で歩き出したはよいが、途中で帰るわけにゆか
ず、山荘まで来たという勇者は「一泊二食付きでいくらですか」ということにな
る。
  こういう人たちのために、掛留近くの河岸段丘のブナ林に引湯し、ささやかな
山荘を建て、世間一般にあるような湯治場をつくらなければならない時機が来て
いると思う。
  高橋松之助氏が昭和の初期に赤谷まで引湯した勇気を思えば、現在の引湯用器
具、機械力による工事は容易なものであろう。
  湯の平温泉に行く人たちを、ここで篩(フルイ)にかければ、転落事故者もな
くなり、ゆっくり湯治ができて喜ぶ人も多くなると思う。」
(以上、飯豊道より)
  
  秘湯ブームともいわれているが、山を愛するものにとって山を知らない人が安
易に山に入って遭難することを聞くと胸が痛む。
  
  私は中学3年の夏、友人と3人でこの湯の平温泉へ行った。
  登山口の掛留沢までは自転車で行き、そこから徒歩で温泉の小屋へ行った。
  若い管理人がボケーとした顔で待っており、小屋で昼寝をして温泉には入らな
かった。
  帰りに加治川治水ダムを過ぎたところのヘアピンカーブで転倒して左肘を大怪
我し2ヶ月ほど包帯が取れなかった。
  私も安易な気持ちで湯の平へ行った一人だった。

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